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タンポポの綿毛が風に乗って種子を運ぶように私たちの思いが​苦しんでいるあなたのもとへとどきますように。


by 関西薬物依存症家族の会

夏の朝に思う。

目覚めた瞬間、セミの大合唱が聞こえる。
ああ、夏なんだなあ。
愛犬のために24時間エアコンが稼働している我が家はいつも寒い。
オフィスも快適を通り越して寒い。
夏を感じるのは、僅か数分の自転車での通勤の時と愛犬の散歩とセミの声くらいだ。

息子の薬物の問題真っ盛りの頃は、四季の変化になど無感覚だった。
人々の装いの変化を眺め、ああ、今は夏なんだと認識する。
楽しそうに夏祭りに出かける若者たちを見ても、まるで別世界の出来事をスクリーンを通してみているような感覚だった。
日常の全てがまるで薄い膜に覆われているようで、薬物の問題だけがリアル。
そのリアルの中にあっても、いつしか私の痛みは当たり前のことになり、血を流し続けているにもかかわらず無痛へと変化していった。

同じ経験を持つ仲間たちと出会ってからしばらくたった頃、突如、私は滴り落ちる血に気づき、ひどい傷をおっていることに気づいた。
凍りついた涙が、あたたかい雫となって頬をつたい、少しずつ膜が剥がれていった。
そして、春。
ああ、桜の花が咲いている。なんて美しいのだろう。
そう感じた自分に、驚いた。
私は、今、桜が美しいと感じたのだ。
美しい、と感じたことに驚いたのではない。
何年もの間、美しいものを美しいと感じる心を失っていたことに気づいて驚いたのだ。
モノクロの世界で生きていた自分に驚いたのだ。

なんという毎日だったのだろう。
美しいものを美しい、楽しいことは楽しい、悲しいことは悲しい、苦しいことは苦しい。
当たり前の感覚を取り戻すことができたのは、仲間たちのおかげだ。
そして、私は、薬物の問題で苦しんでいる息子にも、同じ経験を持つ仲間がいたらいいなあ、と思うようになった。

息子が同じ経験を持つ仲間たちに出会うまでには、それから数年かかった。
今、息子は仲間たちの中で、回復を続けている。

 *NINA*




by familiesofaddicts | 2019-07-30 10:56 | Comments(0)