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タンポポの綿毛が風に乗って種子を運ぶように私たちの思いが​苦しんでいるあなたのもとへとどきますように。


by 関西薬物依存症家族の会

おじちゃん。

私の勤務先は、中小のオフィスが集まるエリアにある。
毎朝、駅からオフィスに向かう途中で、ダンボールを集めるホームレスのおじちゃんといつの頃からか挨拶を交わすようになった。
「おはよ、おじちゃん、きょうは暑いね」
「おはよ、今日も綺麗やなあ」
「ありがとう、おじちゃんのその言葉で元気が出るわ」
暑さが続いたり、雨が続いたり、台風がきたり、めちゃくちゃ寒かったりすると、おじちゃんのことが心配でたまらなかった。
「おじちゃん、台風のあと見かけへんかったから心配したよ」
「いやあ、今回はもうあかんと思たわ」
父が亡くなった時には、父の洋服をもらってもらった。
時々、父の洋服を着てくれているおじちゃんを見かけると、嬉しかった。

それから数年たって、おじちゃんの姿が見えなくなった。
私のほかにもおじちゃんと挨拶を交わしている人たちも心配していた。
よくない想像をして、なにかできることはなかったか?なぜ、どこで過ごしているのか聞かなかったのか?と悔やまれてならなかった。

数か月後、友人から「おじちゃん、発見」と写メが送られてきた。
ほどなく、ギターを背負ったおじちゃんと再会した。ギターを持った渡り鳥か?と心の中でツッこみながら
「おじちゃん、心配しててんで。どうしてたん?」と開口一番尋ねてみると、心臓の病気で倒れ、それをきっかけに支援に繋がり、今は生活保護をもらってアパートで暮らしているとのこと。
「早く仕事したいねんけど、まだ働いたらあかん、って言われてるねん」とちょっと寂しそうに言った。
とにかく、元気でよかった。
それから時々、犬の散歩途中の公園でおじちゃんを見かけるようになった。
「おじちゃん、こんにちは」と声をかけると
「まあここに座り」と、自転車の荷台にくくりつけた座布団をとって、ベンチに特等席を作ってくれた。
そして、「一曲歌うわ」と言って、懐かしいフォークソングを歌ってくれたりするのだ。
おじちゃん、生きててよかったなあ。支援に繋がる手助けをしないで、ごめんな。

今回の台風の報道で、おじちゃんのことを思った。
なにもできなかった私が言うのもなんだが、批判だけで終わらせてはいけない。
批判することは簡単だけれど、この先どうしていくかが大切だ。
それは、依存症に関しても同じ。
世間の無理解やバッシングを嘆いたり、憤っているだけでは、何も変わらない。
どうやったら、その問題を解決することができるか、考え、行動することだ。

 *NINA*





by familiesofaddicts | 2019-10-15 11:14 | Comments(0)