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タンポポの綿毛が風に乗って種子を運ぶように私たちの思いが​苦しんでいるあなたのもとへとどきますように。


by 関西薬物依存症家族の会

私の愛する老犬。

推定16歳(保護犬出身なので正確な年齢はわからない)の老犬は、昨年から介護が必要になった。
彼が我が家の一員になって11年。
その当時、次男は薬物依存の真っ最中だった。
ちいさな頃から犬を飼いたいと言っていた息子たち。
けれども、やんちゃ坊主二人、おまけに夫は仕事がめちゃくちゃ忙しくて今でいうところのワンオペ状態。
そんな我が家では、犬のお世話にまで手が回らないのは明らか。
そんなところにやってきた犬が気の毒すぎる。飼うなら終生責任をもたなければならない。
私もずっと実家で犬と暮らしていたので、犬との暮らしがどんなに幸せなものかはよく知っている。
けれども、もっと君たちが大きくなるまで無理だよ、と飼えない理由を説明してきた。
それなのに、なぜ大きな問題がある時期に犬を迎えたのか?
私も息子も暖かいぬくもりを必要としていたからだと思う。
私は息子を愛していたし(もちろん今も愛している)その時期ですら親子が断絶していたわけではない。
けれどもこと薬物に関しては、不毛な闘いを強いられていた。
そして互いに疲れ果てていた。
ある日、息子が「俺たちが大きくなったら犬を飼っていいって言ってたよな。犬と暮らしたい」と言った。
こんな時に犬をむかえていいのだろうか?
迷いに迷って、ある中間施設の代表の方に相談してみた。
「あなたが飼いたいと思うのなら、なにも迷う必要はないんじゃない?」
そして、保護犬を迎えることになった。

彼がやってきてから私の生活は一変した。
あの頃は彼も若かったのでよく歩いた。
休日には、たっぷり時間をかけていろんなところを歩き回った。
仕事以外は閉じこもりがちだった私を彼が連れ出してくれた。
彼を通していろいろな人と知り合うことができた。
そして辛い時には、静かに私に寄り添ってくれた。
息子もまた彼に助けられた。
しらふの時には一緒に散歩にでかけ、彼を通していろいろな人に声をかけてもらっていた。
家族には言えない辛い気持ちを彼に聞いてもらっていたようだ。
私たちは、薬物依存症という問題の渦中で、家族であるからこそお互いの温もりを感じられなくなっていた。
刺すような、凍てつくような冷たさの中にいた。
その中で唯一温もりを与えてくれたのが彼だったのだ。

そんな私たちの激動の時代をつぶさに目撃していた彼も年老いた。
サポートは必要だけれど、相変わらず淡々と毎日を過ごしている。
年老いてから少し頑固になった彼は、気にいらないことがあるとハムハムと、とても優しく私の手を噛むようになった。
それがなんとも愛おしくて、おかしくて笑ってしまう。
もうこのドッグフード飽きたからいらない!もっと美味しいモノちょうだい!と用意したごはんにそっぽをむくたび、あれこれと必死に探し回る日々。
あちこち悪いところがみつかり、医療費だってかかる。
でも、いいんだよ、それで。
もっとわがまま言っていいんだよ。
もう好きに生きたらいいんだよ。
私たちのために頑張らなくていいんだよ。

どれだけあなたに助けられたことだろう。
どれだけあなたに与えられたことだろう。
私たちはあなたの愛に報いることができているだろうか。
ぐっすり眠る彼をみつめながら、毎日そんなことを自問自答している。
けれども、きっと彼にはそんなこと関係ないのだろう。
ただ愛してくれたらいいんだよ、という声が聞こえたような気がする。

 *NINA*




by familiesofaddicts | 2020-03-24 13:53 | Comments(0)